EXHIBITION

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肘折幻想
2009
和紙に墨と胡粉 
十曲一隻 162845cm
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会場風景
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会場風景
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会場風景
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この度、イムラアートギャラリー京都では三瀬夏之介展 「肘折幻想」を開催いたします。

三瀬夏之介(1973年生まれ 奈良県出身)、京都市立芸術大学大学院日本画専攻修了。2009年から山形に拠点を移し、現在は東北芸術工科大学の准教授を務めています。トリエンナーレ豊橋での大賞受賞(2002)、日経日本画大賞出品(2004)、文化庁作品買上に続き、2006年には五島記念文化財団 美術新人賞を受賞。翌年に研修員としてイタリア・フィレンツェで1年の滞在制作を行いました。
続く大原美術館アーティストインレジデンス(ARKO)、そして2009年にはVOCA賞受賞と、着実に画家としてのキャリアを積み、高い評価を得ています。 また、海外でも台北、深圳(中国)、ドレスデン(ドイツ)にて滞在制作やグループ展を行い、日本画という枠組みを越えたフィールドで幅広く活躍しています。 最近ではホワイトキューブでの発表にとどまらず、現在三瀬が拠点としている山形を含む「東北地方」に注目し、大学や地域を巻き込んだ実験的・一時的な展示のキュレーター、ディレクター的役割を努め、その多才振りを発揮しています。
今秋は、当ギャラリーでの個展に続き、五島記念文化財団帰国報告展として東京の第一生命ギャラリー、イムラアートギャラリー東京のオープン記念、そして母校の京都市立芸術大学が京都市内に今年オープンした話題のギャラリー@KCUAにて大きな個展を行います。

ちぎった和紙に墨と胡粉などで描き、貼合わせた巨大な絵が魅力の三瀬。本展では、三瀬が住む山形の温泉地、肘折のタイトルをつけて、十曲一隻の大きく連なる屏風を展示いたします。直径2キロのカルデラ盆地の底に湧きいでる湯とともに1200年の歴史をもつ土地から感じた三瀬の幻想世界が展開します。その他最新作の小作品も展示する予定です。 奈良で育ち京都で学んだ三瀬が、東北の力を吸収して、また京都に帰ってきます。当ギャラリーでは2年ぶり2回目の個展となります。是非ご高覧ください。



肘折温泉は大同二年に開湯したと伝えられている。肘折だけでなく、東北各地の多くの寺社や銅山や温泉地が「大同二年に開かれた」という伝承を有している。言わば、歴史的な〈はじまり〉として東北の大地に刻印されたこの謎めいた年号は、坂上田村麻呂による蝦夷征伐と重なり合うことで、大和朝廷による東北の軍事・経済・宗教における制圧の記憶を逆説的に物語っている。

三瀬夏之介による十曲の屏風図『肘折幻想』は、二万年前の「火山の爆発」という、もう一つの肘折の〈はじまり〉を描いたものだが、画家の郷里であり度々モチーフとして描かれる奈良(=ヤマト)に端を発する「ニッポン」の情景と、興味深い因果関係を見せる。

これまで三瀬は、全長三〇メートルを超える大作『奇景』や、『日本画滅亡論』、『日本画復活論』などで、持ち前の諧謔的オリエンタリズムを発揮し、常に「日本画」における「日本」のありようを問い続けてきた。三瀬の描くあけすけな世俗に塗れた富士山や大仏、五重塔などの「ニッポン」の情景は、現代と過去がめまぐるしく交錯する奇怪なコラージュの化粧に覆われており、そのイマージュの版図を今日のアートシーンに拡げるべく、画面は無限に巨大化する気配を漂わせていた。

しかし『肘折幻想』に三瀬は、かつての狂想曲のような表層のアウラではなく、静かに閉じられていく緞帳に似た、ある種の閉ざされた思慮深さをまとわせている。二〇〇八年の作品『ぼくの神さま』でファルスのように画面から突き出していた山々は、ここでは不可視な闇を孕んだ水墨のなかで粘動しており、火山の熱を含んだ蒸気がその輪郭を曖昧化させている。

現在、三瀬は山形に居を移し、『東北画は可能か?』という問いを自ら掲げて制作に取り組んでいる。肘折温泉の起源を「大同」の伝承に依拠して描くのではなく「正史」以前の曖昧模糊とした世界として知覚し、「山の生成そのものの記憶」として描いたその眼差しの先には、自らが指向してきた歴史化・記号化された「ニッポン」の風景に対峙する『東北画』の母型があったはずだ。その寡黙な画面の裏側で、東北の地から「日本画」の「日本」を揺るがすような視座の獲得が準備されている。

宮本武典(東北芸術工科大学 美術館大学センター 主任学芸員)

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三瀬夏之介 個展 「肘折幻想」

2010年10月2日(土)〜10月23日(土)

三瀬夏之介 個展 「肘折幻想」

2010年10月2日(土)〜10月23日(土)

対談・レセプション
2010年10月2日(土) 17:00〜
対談:小吹隆文(アートライター) 三瀬夏之介